完:[木庵禅師物語]vol.25 末後の一句
急を聞いて駆けつけられた悦山和尚が、「どうかいま少し長くこの世に生きながらえてくださいますように」と申し上げられますと、木庵禅師は、「お釈迦様でさえいつまでも生きながらえてはおられなかった。私にどうしてそうしたことができようか」とかえって慰められました。辞世の句をお願いされますと、木庵禅師は「すべてのものは空であり、すべてのものにはいつまでも変えられないという姿かたちはない。これが私の世を去るにあたっての一句である」と言われ、しばらく側の者たちを眺めておられましたが、静かに目を閉じ、柔らぐようにお亡くなりになりました。ときに天和4年1月20日午前2時でした。生年74歳、僧となられてから57年でした。ご遺骸は黄檗山内萬寿院の塔所にお祀りされました。
出典:木庵禅師物語
発行:昭和57年10月