[木庵禅師物語]vol.9 生姜と拳
翌年には、再び用庵和尚と西湖へ行脚に出かけられ、そこで若庵和尚に、また竜門で三宜和尚に、また保寿で石雨和尚に、と次々の相見されて禅問答を交わされました。たまたま費隠老和尚が金粟山に来ておられると聞かれ、駆けつけられました。老和尚はある日のこと、その頃副寺(寺の会計)の約につかれていた禅師に、
「お前、生姜を持参してきたか。」
と、尋ねられました。すると木庵禅師が、
「持っては参りましたが、いつでもお役にたてましょう。」
と、答えられますと、老和尚は、
「では、さっそくそこに出してもらおうか。」
と言われました。木庵禅師はサッと拳を立てられました。老和尚はすかさず、
「それはなんのまねだ。」と。
すると、木庵禅師は、
「この生姜の一ひら一ひらは皆なぴりっと辛いですよ。」と答えられました。
出典:木庵禅師物語
発行:昭和57年10月