［木庵禅師物語］vol.5 大亀を放流す

その頃のある日のこと、木庵禅師がたまたま市街に出かけられていますと、市場で四尺（一尺は明時代では31.1センチメートル）ばかりの大亀が売りに出されていました。木庵禅師はすぐにお銭を払って亀を買い取り、河に放ってやられますと、亀は何度もふりかえっては、お礼を言っているようでした。木庵禅師は、

「仏法僧の三宝を深く信じ敬って、永くこの浮世の荒波から脱れ成仏してくれ」

と言われますと、亀は波の上を踊るようにして去っていきました。近くでこれを眺めていた人たちは、一斉に感嘆の声を放ちました。

22歳のとき、受業師の（最初の師匠さま）樵雲大師が亡くなられました。この年、祖母のため田を買われて老後の心配がないようにされ、先祖のお祀りをする小さな御堂も建てられました。翌年には木庵禅師の後援者給諫幼心傳公（きゅうかんようしんふこう）が弥陀庵を建てて贈られましたので、竣工の日、法華経を詠んで祝われました。